あらすじ
「待て!」
夕方の古びた歩道橋。長年の風雨に晒されたせいなのか塗装はほとんど剥がれ落ち、あちこちに赤茶けた錆が浮いている。銀色の手すりはすっかり曇って光沢を失い、足元のタイルには無数のひび。割れた隙間からは灰色のコンクリートが覗き、階段の隅には黒ずんだ苔がこびりついていた。
一歩進むたびにぎしぎしと軋む音がして、幅は大人が二人ようやくすれ違える程度しかない。スロープの類もなく、なんとも味気ない陸橋である。
おれが買い物帰りに階段を上がり切った、ちょうどそのときだった。反対側から慌ただしい足音が響いてきた。子供かな――そう思った直後、怒鳴り声がびりびりと空気を震わせた。
顔を上げた瞬間、おれは思わず息を呑んだ。
そこには一人の男が立っていた。髪はぼさぼさに乱れ、着ているシャツは皺だらけで襟元も大きく崩れている。何日もまともに眠っていないようなやつれた顔つきで、今しがた足を止めたばかりなのだろう、肩を大きく上下させながら荒い息を吐いていた。ただその目だけは異様なほど大きく見開かれており、強い光を宿していた。
そして、その背後には一人の警官の姿があった。
どうやらこの男を追っていたらしい。男は一度背後を振り返り、すぐにまたこちらへ顔を戻した。その表情には焦りと緊張が色濃く滲み、逃げ道を探すように視線が忙しなく狭い歩道橋の上を走り回っていた。
これはどう見ても、なんらかの事件の犯人に違いない。
そう思った瞬間、おれは反射的に身構えていた。両の拳をぐっと握りしめ、胸の前に構える。ぶら下げていたスーパーのビニール袋ががさりと音を立てた。