あらすじ
何も起こらないようにするのが、仕事だった。二十八歳のセキュリティエンジニア・相楽修が異世界で授かったのは、鑑定士に「ハズレですね」と言われた<デバッグ>スキル。
攻撃もできない。回復もできない。できるのは、なぜ正常に動かないのかを見つけて、直すことだけ。そのスキルが役に立ったのは、五百年のあいだ誰も入れなかった古代遺跡だった。
灯りを点ける。水を通す。止まっていた部屋の温度を戻す。五百年ぶんの埃を払いながら、修はふと思った。
(……これ、住めるんじゃないか?)
住むところがないから、遺跡に住む。
直せるものがあれば直す。
それだけだったはずなのに、守備隊のフィーネには世話を焼かれ、魔道具技術者のリタには工房ごと押しかけられ、施設管理端末のニコには「規定です」と止められる。
気がつけば、人が増えていた。
人が増えれば、水が足りなくなる。灯りが消えれば、夜は暮らせない。冬に暖房を止めれば、それは不便ではなく危険になる。
住む人が増えるほど、不具合も増えていく。
やることは、元の世界と変わらない。現状を見て、原因を辿って、二度目が起きない形にする。
直し方は分かる。知らないのは、この世界のやり方だ。
修は街の教会へ、点検のやり方を教わりに行く。
教会が五百年、神聖な祈りとして守り続けてきた儀式。
その正体は、理由を忘れられたまま残った、結界の運用手順だった。
そして司祭コンラートとは、なぜか酒を飲む仲になる。
不具合を直せば、暮らしが変わる。
仕組みを直せば、街が変わる。
ただ、住める場所が欲しかっただけなのに。
異世界の古代遺跡をデバッグしながら、人の暮らしを作っていく――お仕事×拠点開拓ファンタジー。
「不具合を直しただけです」