あらすじ
「魔王、飽きたな。余はもう魔王を引退する」
その一言で、1000年近く続いた魔族領の国政をあっさり投げ出した魔王サタニトゥス。
いや、元魔王サタニトゥス。
部下たちが絶叫する会議室で、彼は淡々と語る。
「侵攻も止まった。交易も順調。瘴気も浄化が進んでいる。余の仕事はほぼ終わった」と。
戦争も財政破綻も魔獣被害もなくなった今、ただ「平和な暮らしをしてみたい」──それだけが理由だった。
そして10年後。
人間領の小さな村・ココットに、筋骨隆々の大男がパン屋を開いていた。
店主の名はサッシャ。
焼きたてのドラゴンパンや愛らしいフェンリルパンなど、リアルすぎる魔獣パンを並べ、子供たちに「サッシャおじちゃん!」と慕われる人気者だ。
迫力ある顔に似合わぬ愛嬌ある笑顔で、今日もパンを焼く彼を、誰もがただの優しいパン屋だと信じている。
かつて世界を震え上がらせた歴代最長在位の魔王が、今や小麦粉にまみれて第二の人生を送っている。
そんな元魔王の穏やかすぎる日常が、ここから始まる。