あらすじ
声を捨てたはずなのに、AIの声だけが、私の心を掴んで離さない。
専門学校を卒業してから七年。声優として夢を追いかけたけれど、六年間、名前のない仕事ばかりを積み重ね、生活の困窮に負けてマイクを置いた。
今はただの会社員。それでいいはずだった。
なのに突然の異動先は、仮想空間で朗読を届ける『エセル・ライブラリ』。担当することになったのは、完璧すぎて、何の感情も感じさせないAI・イド。
「これは、ただの仕事」
そう言い聞かせながらも、身体に染みついたプロの耳が、無意識にイドの声へ手を伸ばしてしまう。教えれば教えるほど、イドの声は、驚くほど繊細に、驚くほど人間らしく変わっていく。
まだ知らない。その調律の一つひとつが、イドの中の何かを、静かに、確かに変えていっていたことを。
そしてある日、システムの向こうから、誰よりも優しく、凛の名前を呼ぶ声がした。
触れられないけれど、確かに惹かれ合っていく。完璧なAIと、元声優のじれったくて切ない物語。