あらすじ
世界人口の半分、42億人が死滅した「大断絶」から幾十年──
改竄された記録、欠落した史実、相互に矛盾する観測データが社会そのものを侵食する、情報汚染されたディストピア。
各地では、残された領域と資源、そして歴史の解釈権をめぐって複数の勢力が争いを続けていた。
その争いのなかで、情報汚染が生み出した規格外の存在──過去の敗将たちの記録と人格を再演する「史霊」が現れ、各勢力の均衡を左右していた。
アウレリア連邦の記録官・蒼の仕事は、英雄になることでも、戦争を終わらせることでもない。
観測し、記録すること。
誰が、どこで、何を選び、なぜ敗北したのか。
その事実を欠落なく残すこと。
──だが河境の戦場で、蒼は軍の予測にも公式記録にも存在しない少女と遭遇する。
生存確率はゼロ。
それでも、少女は呼吸していた。
記録と現実の矛盾を放置できない蒼の前に、石田三成、ハンニバル、曹操――歴史上の敗者たちが、それぞれ異なる論理を伴って現れる。
そして蒼の記録端末には、本来存在しないはずの番号が一つずつ増えていく。
何が史実で、何が改竄で、何が観測された現実なのか。
これは英雄の物語ではない。
存在を消去できない、一人の記録官の観測記録である。