あらすじ
十年ぶりに再会した元恋人は、七歳の娘を連れて私のカフェにやってきた。
白石美緒、三十二歳。
十年前、私は神崎悠真と別れた。
嫌いになったわけではない。
彼には海外で建築の仕事をする夢があり、
私には病気の母と、守らなければならない店があった。
「行かないで」
「待ってる」
「それでも好き」
本当は全部言いたかったのに、何ひとつ言えなかった。
最後に交わしたキスだけを残して、
私たちは別々の人生を歩いた。
それから十年。
自分のカフェを持った私の前に、悠真が現れる。
隣にいたのは、母親を亡くした七歳の娘・莉子だった。
莉子にホットミルクを出した、その時。
「この人が、ママが言ってた美緒さん?」
私は言葉を失った。
亡くなった悠真の妻は、なぜ私のことを知っていたのか。
そして悠真は告げる。
十年前、最後のキスをしたあの日。
本当は私に渡すつもりだったものがあった、と。
それは、渡されなかった指輪。
止まったままだった十年前の恋。
妻を本当に愛していた悠真。
母を失い、声を出して笑えなくなった莉子。
そして、亡くなった妻が残した一通の手紙。
過去を消して、新しい恋を始めるのではない。
亡くなった人の場所を奪うのでもない。
大切だった人を大切だったまま残して、
それでも生きている人は幸せになっていい。
コーヒーの苦さと、
蜂蜜入りのホットミルクの甘さがつなぐ、
十年越しの再会と、喪失から始まる大人の恋の物語。