あらすじ
「その触媒は不純物だ」――神殿騎士団長シリルにそう告げられ、フィオナは婚約を破棄された。花の香りと虹色の光を放つ新たな聖女候補メリダと比べ、彼女の浄化は「無味無臭で薬臭く陰気」だと嘲られたのだ。
だが、誰も知らない。フィオナの「浄化魔法」の正体を――。
前世で無菌製剤室に勤める製薬技術者だった彼女は、その知識で無意識に巨大な「無菌室」を再現し、疫病の原因たる瘴気を分解・無害化していた。ひやりと澄んだ空気こそ、人々を疫病から守る本物の力。
「私の浄化は祈りではありません。原理があります。私が抜ければ、聖域の空気は元に戻ります」
忠告を嘲笑で返した神殿を、フィオナは静かに去る。向かうは、疫病で寂れた辺境の療養村。魔法に頼らず、煮沸・換気・手指の消毒――前世の知識だけで、彼女は本当に人を救えるのか。
一方、聖女を失った神殿と王都では、忘れ去られたはずの疫病が、再び静かに牙を剥き始める――。
崇められる聖女は、もういらない。この世界を静かに救う、ただ一人の技術者として。あの澄んだ無菌室の香りを、この世界の当たり前にするために。