あらすじ
「リディアがいなくても、侯爵家は回る」
そう父に言われたので、リディア・カルステンは侯爵家の仕事を辞めることにした。
領内の物流を整え、商会との契約を組み、農村を支援し、財務を立て直す。
幼い頃から侯爵家のために働き続けてきたリディアだったが、その功績として公に記されるのは、いつも跡取りである弟の名前だった。
それでも家のためなら構わないと思っていた。
自分の作った物流網が犯罪に利用され、成功の記録にはなかった自分の名前が、「責任者」としてだけ書類から次々に出てくるまでは。
捜査の末、リディアの無実は証明された。
けれど父から返ってきたのは感謝でも謝罪でもない。
「仕組みはもう出来上がっている。フェリクスだけで回せる」
長年の婚約も終わった。
ならば、もういい。
家の外では通用しないと言われたリディアは、生まれて初めて「自分の名前」で働き始める。
満室なのに赤字の宿。
採るほど損をする大豊作の林檎。
黒字なのに給金を払えない工房。
船が増えるほど遅くなる港。
一見まったく違う問題から、誰も気づかなかった繋がりを見つけ、次々と答えを出していくリディア。
しかも彼女が何気なく残した小さな契約、予約、倉庫、荷車は、その時には誰もが納得できる程度の備えにしか見えない。
やがて現実の方が、その思考へ追いつくまでは。
そんな彼女を見つけたのが、エーレンフェルト公爵エルハルトだった。
「君が作った案だ。なら、君の名前を書く」
成果は、作った者の名前へ。
決裁した責任は、自分の名前へ。
それはリディアがずっと知らなかった、当たり前の働き方だった。
一方その頃、彼女の完成した答えだけを使ってきた侯爵家では、少しずつ仕事が狂い始める。
「姉上の仕組みなのに、どうして俺には直せない?」
自分たちが手放したのが、ただの侯爵令嬢ではなかったと気づいた時には、もう遅い。
これは、他人の名前の陰で領地を動かしてきた一人の女性が、自分の仕事に、自分の値段と権限と名前を取り戻していく物語。
そして
リディア・カルステンという名前そのものに、仕事が舞い込むようになるまでの物語。