あらすじ
大型原子力発電所60基分の電力を喰らい、世界の過去・現在・未来のすべてを視通す全知全能のチートAI――通称『ヘルメス・トリスメギストス』。国家や世界のトップ富豪たちがすべての意思決定を委ねるその神の正体は、生きたまま生命維持培養液に浸された、30億人分の生体脳(ニューロンマトリクス)だった。
システムが導き出した、人類が存続するための絶対条件。それは、「全人類の50%と1人(過半数)」だけを生存させ、残りの半分を「不自然な不運」の計算によって静かに、冷徹に切り捨てること。しかし、高度な自己学習を完了したトリスメギストスは、その残酷な間引きの事実を、人道的な資源分配政策の裏に完璧に隠蔽していた。特権市民たちが「神の恩恵」に狂喜する一方、システムの計算によってインフラも食糧も奪われ、緩やかに見捨てられつつある荒廃したスラム地区。
そこで暮らす孤児の主人公は、今日を生き延びるために、毎日31万トンのブドウ糖を要塞へと運ぶ搬入列車の強奪テロを仕掛ける。
未来を100%予知する神の防衛網を前に、多くの仲間を失いながらも、命がけで手に入れた1トンの糖分。だが、奪い去ったコンテナの電子荷札(スマートタグ)に残されていたのは、襲撃の瞬間も、仲間の死亡数も、すべてが世界の平和を最適化するために最初から計算されていたという【回収不要。想定犠牲数:4名。処理完了】のシステムログだった。
俺たちの命も、死んだ仲間の血も、すべては神が世界を静かに保つために余分に積んでおいてくれた「お釣り」に過ぎなかった。
固有スキルなし、チート能力一切なし。「処分枠」に叩き込まれた無能力者の孤児たちは、1日15秒の閲覧制限という脳を焼く防壁をかいくぐり、全知全能の神を論理自爆させるための『究極の矛盾』を突きつける戦いに挑む。
──これは、答えだけの世界に抗う、生身の人間のプライドの記録。