あらすじ
最初の予約客は、勇者と魔王。
予約されていたのは、同じ部屋だった。
ひょんなことから異世界へ迷い込んだ佐伯航は、実家の旅館で働いていた経験を頼りに、街道沿いの小さな宿「灯り木亭」で暮らしている。
ところが、宿の主人は「七日ほど留守にする」と出かけたきり帰ってこない。
残されたのは、わずかな仕入れ代と雨漏りする屋根、そして名前も人数も分からない予約だった。
ようやく迎えた営業初日。やってきた二人は、顔を合わせるなり剣を抜く間柄。
だが、この宿には不思議な決まりがあった。
――宿帳に名を記した客同士、朝の鐘まで互いを傷つけられない。
「相部屋でしたら、お一人銅貨二枚お引きします」
世界の命運より、今月の修理代。
少し図太い宿主のもとに、帰る場所のない旅人や、誰にも言えない事情を抱えた客が訪れる。
夕食では軽口を交わし、眠れない夜にはぽつりと本音がこぼれる。
朝になれば、またそれぞれの道へ。
温かい食事と乾いた寝床をご用意して、今夜も灯り木亭は営業中です。