あらすじ
――人を助けて、俺は死んだ。
事故に遭いそうな老人を庇い、命を落とした平凡な中年男。だが死後、彼を待っていたのは安息ではなかった。
助けた老人から与えられたのは、二つの力。
物をわずかに動かす力。
そして、強い感情が刻まれた物から、記憶の断片を読み取る『残留思念』
血のついた凶器。
消されたメッセージ。
誰かに握り潰されたメモ帳。
死者にしか見えない痕跡を手がかりに彼は殺人、失踪、脅迫の裏に潜む悪意を暴いていく。
だが、その力には代償があった。
物を動かすたび、残留思念を読み取るたびに、彼の存在は少しずつ削られていく。
記憶が薄れ、声が遠のき、やがて誰の目にも映らなくなる。
彼の声は、誰にも届かない。
触れられる物は限られている。
残せるのは、誰かが気づくかもしれない、ほんの小さな違和感だけ。
一度でも力を使いすぎれば、事件の真相より先に、自分自身がこの世界から消える。
それでも事件を追ううちに、現場には奇妙な共通点が浮かび始める。
そこに残されているのは、彼が死んだ瞬間に見たものと同じ痕跡。
そして、記憶の断片に映る――自分を殺した“誰か”。
あの事故は、本当に事故だったのか。
自分を救った老人は、本当に神なのか。
なぜ自分は、死ななければならなかったのか。
そして────
あの日 本当に死ぬのは、自分だったのか。
答えに近づくほど、彼の力は失われ、存在は薄れていく。名前も、記憶も、誰かと過ごした時間さえも、闇の中へ消えていく。
真相を暴くために力を使えば、自分が消える。
消滅を恐れて立ち止まれば、犯人を逃がす。
残された時間は、もう長くない。
限られた力と届かない声を頼りに、死んだ“ただのおっさん”は、現代社会の闇と、自らの死に隠された真実へ挑む。
――これは、死者が事件を追う物語ではない。
消えゆく存在を代償に、死者にされた男が、自分を殺した者の正体を暴く、ミステリーサスペンスである。