あらすじ
忘れられた人は、死ぬのではない。ただの物へ戻る。
七月二十三日、夏休みの初日。
十二歳の灯は、鞄の持ち手に結んであったお守りを失くした。
その日、遺失物センターの、処分済みの棚の奥に、扉が開いていた。
向こうはレポ。人の失くした物ばかりが落ちてくる街。
住んでいるのは、こちら側の誰かに思い出されている限り、そこに居られる者たち。
最初に会ったのは、十三歳の拾い屋だった。名をキリという。
彼は初対面の灯に、他人が落とした財布を売りつけた。
灯にできることは一つしかない。名前を書くこと。
こちら側の人間が書いた名前は、少しだけ消えにくい。
――灯が一日忘れると、キリは一年ぶん歳を取る。
処分の日まで、あと三十九日。
その日、もう探されていない物は捨てられ、街では大勢が一斉に物へ戻る。
灯の祖母は六十年のあいだ、毎年一枚、同じ届出票を書き替えてきた。
今年、書き替えなかった。