あらすじ
夫の神谷悠真が、半年以上続いた海外プロジェクトを終えて帰国した。
私は午後の予定を調整し、霞ノ宮国際空港まで迎えに行った。到着口から悠真の姿が見えた瞬間、自然に頬が緩む。半年ぶりに会う夫を抱きしめようと、そのまま両手を広げた。
ところが、悠真の隣にいた若い女が先にタブレットを持ち上げた。私の手元を見て、画面を二度ほどタップする。
「再会してすぐ自分からハグを求める。スキンシップへの要求が強いので、リスク一ポイント。長いネイルのまま抱きつこうとするのも、相手への配慮が足りません。これも一ポイントです」
女は次に私の顔と服装を見た。
「フルメイクで空港に来ている点も、自分がどう見られるかを気にしすぎています。これで三ポイント。レッド判定ですね」
そのまま悠真へ顔を向ける。
「私は、離婚も選択肢に入れて今後の夫婦関係を考えたほうがいいと思います」
広げた腕が止まった。
旅行客が行き交う到着ロビーで、私は目の前の女を見つめた。顔も名前も知らない。会ってから、まだ一分も経っていない。
「誰、この人?」
悠真が答えるより早く、女が一歩前へ出た。
「佐伯寧々です。悠真さんから依頼を受けて、夫婦関係のカウンセリングとリスク評価を担当しています」
タブレットを胸元に抱え、落ち着いた声で続ける。
「先ほどの評価も、パートナー適合モデルに基づいたものです。今日の美緒さんの言動を見る限り、お二人の関係にはかなり大きなリスクがあります」
もう一度、悠真を見る。
「このまま結婚生活を続けるべきか、一度きちんと考えたほうがいいと思います」
私は黙って悠真を見た。
さすがに止めると思っていた。
けれど、悠真は佐伯さんの隣に立ったまま口を開いた。
「佐伯さんは海外で専門的な研修を受けてる。適当に言ってるわけじゃない」
あまりにも馬鹿げていて、言葉が出るまで少し時間がかかった。
「会って一分もしない人が、あなたの妻に離婚を勧めてるのよ?」
悠真から目をそらさない。
「それで、あなたも離婚するつもり?」