あらすじ
もう、次の約束を待つのはやめよう。
王立産院の治癒師エリサは、そう決めた。
結婚七年目の夫へ、離婚を申し立てた。
夫のアルノーに愛人はいない。
彼はただ、仕事を優先し続けてきた。
エリサの痛みも、話し合いも、いつも後回しだった。
離婚申立書を出したその日。
生まれたばかりの王女が、産院へ運び込まれる。
その身体には、見たこともない黒い紋が広がっていた。
治療しようとした者には、苦痛が逆流する。
エリサ一人でも、アルノー一人でも耐えられない。
二人の婚姻紋を繋いだ時だけ、赤子の呼吸は戻った。
この国では、治癒師の夫婦だけが使える共有治癒がある。
痛みと魔力の負担を、夫婦の間で分ける魔法だ。
そして今、王女を診られるのは二人しかいない。
けれどエリサは、離婚を取り下げるつもりはない。
患者を救うことと、誰の妻でいるかは別だからだ。
そんな彼女の前で、王女の黒い紋は再び動き始める。
離婚まで残された時間は、わずかしかない。
夫婦でなくなろうとする二人は、夫婦でしか救えない命を前に、何を選ぶのだろう。