あらすじ
とある人気の天才ピアニスト。
舞台袖から足先が覗いた瞬間、会場内に雷雨のような拍手が轟いた。肌がびりびりと痺れ、鼓膜のさらに奥、脳の芯までも震える。
とても本日通算二十回目の拍手とは思えないほどの熱量である。
観客の手のひらはすでに真っ赤に腫れ上がっていた。皮膚はひりつき、指先にまでじんじんとした痛みが走っている。それでも誰もが痛みに歯を食いしばりながら手を叩き続け、半ばやけくそ気味であった。
というのも、このピアニスト。咳払いはもちろん、椅子が軋む音や布擦れ程度のかすかな音がしただけで、すぐさま演奏を中断して楽屋へ引っ込んでしまうのである。