あらすじ
味がすべての国・苓王朝。皇室の食卓を守る「味聖女」の座は、生まれつき神の舌を持つ少女にのみ与えられる。
――はずだった。当代の聖女・苓香は、味がまったくわからない。
塩も砂糖も、毒薬の苦みすら彼女の舌は通過するだけ。十年かけて育て上げられた「失敗作」は、聖女の座を剥がされ、後宮の最底辺――妃たちの食事を先に食べて死ぬか死なないかを証明する灰食女官に落とされた。
だが、誰も気づいていない。味がわからないということは、味に騙されないということだ。
後宮で起き始めた奇妙な食中毒事件。被害者は皆、死の直前まで「こんなに美味しいものは初めて」と笑っていたという。毒は舌を痺れさせるもの。なのにこの毒は、舌を歓ばせる。犯人は料理の天才で、そして完璧な毒殺者。
味を捨てた聖女・苓香と、神の舌を隠した料理女官・桃葉。食卓の上の静かな戦争は、塩一つ匙一振りの世界で、今日も続く。