あらすじ
魔法がすべてを決める世界。
田舎で暮らしていた17歳の少年アレンには、魔法の才能がほとんどなかった。
火も出せない。水も操れない。治癒魔法すらまともに使えない。
そんなアレンが祖父から教わったのは、魔法ではなく「魔獣を治す技術」だった。
怪我をした魔狼には傷口を洗って薬を塗り、骨折した飛竜には添え木をする。腹を壊した魔獣がいれば餌を調べ、病気になれば原因を探す。
アレンにとって、それは田舎では当たり前の仕事だった。
祖父が亡くなったことをきっかけに、アレンは王都へ向かう。
新しい仕事先は、国内最高峰の王立魔導学院。
もっとも、教師でも生徒でもない。
学院で飼育されている魔獣へ餌をやり、掃除をするだけの飼育員だった。
「珍しい魔獣も見られるし、俺にはちょうどいい仕事かもな」
そう思っていたアレンだったが、勤務初日に事件が起こる。
学院最強と呼ばれる少女セレスティアの契約飛竜、ルビーが突然倒れてしまったのだ。
高位の治癒魔導師たちが何度魔法を使っても症状は悪化するばかりだったが、アレンは飛竜を見て首を傾げる。
「これ、病気じゃないですよ。餌を食べすぎて、胃の中に火晶石が詰まってるんじゃないですか?」
原因を取り除くと、飛竜は無事に回復した。
しかも、これまで主人以外にはほとんど懐かなかったルビーが、なぜかアレンの部屋の前まで押しかけてくるようになる。
それをきっかけに、処分寸前の魔狼、傷ついたグリフォン、王家に仕える神獣など、次々と訳ありの魔獣たちがアレンのもとへ運び込まれてくる。
そしてアレンは少しずつ知ることになる。
祖父から教わった「普通の治療法」が、治癒魔法に頼り切った王都では失われつつある技術だったことを。
さらに、祖父自身もかつて王都で名を知られた魔獣研究者だったことを。
「いや、俺はただの飼育員なんだけど……」
本人の意思とは関係なく、アレンの評判は学院から王都へ広がっていく。
やがて人々は、魔法を使えないはずの田舎者をこう呼び始める。
――《万獣の医師》。
これは、魔法の才能を持たない少年が、誰にも治せない魔獣たちを救いながら、いつしか世界中の魔獣から頼られる存在になっていく物語