あらすじ
「お前は、毒を飲んでも死なない女なのか?」
伯爵家の落ちこぼれ令嬢、リゼット・アルヴェイン。
幼い頃から薬草と毒物に異常な興味を示し、社交界では「気味の悪い薬草令嬢」と呼ばれていた彼女は、ある日、父親から王宮へ呼び出される。
命じられた仕事は、王太子妃付きの臨時毒見役。
ただし、リゼットには一つ問題があった。
彼女は毒に強いわけではない。
むしろ、少量の毒でも普通に苦しむ。
だからこそ、彼女は毒見役を嫌がった。
ところが王宮に上がった初日、王太子妃に献上された一箱の砂糖菓子を見て、リゼットは首を傾げる。
「……これ、毒が入っていません」
「では安全なのですね?」
「いいえ。だから困っているんです」
毒が入っていない。
香りにも問題はない。
色も形も正常。
作った菓子職人にも不審な点はない。
それなのに、リゼットには一つだけ気になることがあった。
――贈り主が、王太子妃の好物を知っているはずがない。
やがて判明するのは、毒殺未遂ではなかった。
毒を使わず、人を殺すための計画。
そして、その計画の中で最も恐ろしいものは、毒でも刃物でもなく、
「親切」
だった。
王宮で起こる事件の多くは、悪意だけでできているわけではない。
誰かを助けたい。
誰かに喜んでもらいたい。
誰かのために何かをしたい。
そんな小さな善意が積み重なり、誰も気づかないうちに、一人の人間を死へ追い込んでいく。
「毒は、瓶に入っているとは限りませんよ」
これは、毒を嫌い、薬を愛し、人間の善意を一番信用していない令嬢が、王宮の事件を解き明かしていく物語。