あらすじ

通夜の寿司はプラスチックみたいに乾いていた。彼女は死んだ。トラックに轢かれて、頭の半分を持っていかれて、俺は五貫の寿司を無理やり飲み込んで、そのまま安酒を流し台にぶちまけた。 なのに午前一時、スマホが鳴った。画面には『美咲』。 「もしもし」 「知ってる」 死んだはずの声が言う。地下にいる、と。三千メートルの底に、と。早く降りてこないと、あたし全部食べられちゃう、と。 アーミーナイフをポケットにねじ込んで、俺は秋葉神社の裏の穴に潜った。坑道の壁は記憶でできていた。幼稚園の上履き、実家の玄関、彼女のアパートの万年床——順番なんかなかった。目のない男が母親の顔を舐めて笑った。もっと下だ、もっと下だ、と。 底で待っていたのは、彼女と、俺の形をした何かだった。同じ顔で、同じ声で、俺より正しく彼女を愛している、俺。 ナイフを渡されて、俺は選んだ。刺したのは、俺じゃなかった方だ。 でも、何も終わらなかった。 地上に這い上がって、部屋のドアを覗いたら、そこにも俺がいた。うどんを茹でながら、「遅かったね」って笑ってた。 スマホが鳴る。発信者は『俺』。 もしもし、と俺の声が言う。地下三千メートルにいる、俺だけど。 じゃあ今ここにいる俺は、誰だ。

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カクヨム
カクヨム2026/09/10
  • 現在の作品きみを殺して、きみになる