あらすじ
【中華風ダンジョン】
地図師の仕事は、迷宮の最短ルートを描くこと。
――少なくとも、十六歳の捉妖師・知微《チビ》が地図を描き始めるまでは、誰もがそう思っていた。
青瓦連なる皇都の地下には、百の階層からなる巨大迷宮「百景迷宮」がある。
雨煙る水郷。桃花の谷。雪に閉ざされた霊峰。雲海を泳ぐ巨獣。
階層を一つ下りるたび、そこには別天地のような山河と、古い書物にしか残っていない奇妙で愛らしい妖怪たちの暮らしが広がっている。
地図師になるため、第一階層から歩き始めた知微の地図は、少し変わっていた。
ふわふわの白狐は、どの桃の木の下で昼寝をするのか。
毛玉みたいな小妖たちは、夕暮れになるとどこへ帰るのか。
どこの水がいちばん甘く、どこなら火を起こして美味しいものが作れるのか。
そんな「攻略にはいらないこと」まで、知微は何でも地図に描いてしまう。
「これは地図じゃない。妖怪の観察日記だ」
誰もがそう笑った。
けれど、人間の道が途切れた先にも、妖怪たちの道は続いている。
同じ食卓を囲み、少しずつ仲良くなった妖怪たちだけが知っている、岩山の抜け道。水底の洞窟。花の咲く夜にだけ現れる橋。誰も描かなかった暮らしを描き続けるうち、知微の地図は、人間の地図にはない道を次々と見つけ始める。
第一階層から、誰も辿り着いたことのない第一百階層まで。
古い書物に残された、たった一行――
「百景の尽きるところ、天を見る」
地下へ、地下へと続く迷宮の果てに、なぜ空があるのか。
その答えを探しながら、今日も知微は妖怪たちと、よく食べ、よく笑い、次の景色へ向かう。