あらすじ
建築・設計の仕事をしていた滝本岳は、異世界で《描画》と《構築》という二つの力を手に入れる。
危険な魔物が闊歩する世界で、まず必要なのは安全に暮らせる場所。
「どうせ造るなら、ちゃんとしたものにするか」
ただ、それだけのつもりだった。
土地の地形を読み、景色を活かして建物を配置する。
家具を選び、庭を整え、水を引き、光をデザインする。
魔物から身を守る防壁や門でさえ、景観の一部として美しく仕上げていく。
《描画》で理想の景色を描き、《構築》でそれを現実に変える。
そうして完成した、自分ひとりのための拠点。
岳自身も出来栄えには満足していた。
ただ――。
「……さすがに、ちょっとやりすぎたか?」
やがて、その場所を訪れた一人が「ここに住みたい」と言い出した。
一人が二人に。
二人が五人に。
職人が工房を求め、料理人が店を開き、商人が行き交い、旅人が泊まり、家族が暮らし始める。
人が増えれば、必要なものも増えていく。
宿、工房、市場、広場、温浴施設、水路、橋、そして魔物の襲撃から住民を守る城壁。
岳が新しい景色を描くたび、何もなかった土地に新しい場所が生まれていく。
もちろん、誰もが岳のやり方を認めるわけではない。
「見た目ばかりの設計だ」
「そんな城壁で魔物を防げるものか」
「平民の暮らす場所に、そこまでする必要があるのか?」
古い常識に縛られた者たちは、岳の設計に難癖をつける。
だが岳が造るものは、ただ美しいだけではない。
美しく、使いやすく、そして強い。
やがて小さな拠点は集落となり、町となり――岳自身も、その場所に暮らす人々を守るため領主として歩き始める。
これは、最強の勇者が世界を救う物語ではない。
一人の男が描いた景色に人々が集まり、やがて世界の誰も見たことがない街へと育っていく物語。
『自分のための拠点を造っただけなのに、異世界中から人が集まってきます』