あらすじ
染工町の外れ、景徳染坊で育った茜は、生まれつき緋色と鴉羽色を見分けられない。色を扱う染師でありながら色が見えない――そのぶん彼女は、水加減、媒染剤の匂い、糸の縮み方まで、指先と手順だけで染めを判じる技を磨いてきた。
ある日、師の景徳が病に倒れ、代わりに引き受けたのは後宮から下された曰くつきの依頼。祭礼用の緋色の領巾に浮いた、説明のつかない黒い汚れを直せというのだ。生地に残った痕を辿るうち、茜はそれが染めの失敗ではなく、ある毒と媒染剤が起こした反応の跡だと気づいてしまう。
知ってしまった以上、後宮に呼ばれるのは時間の問題だった。迎えに来たのは、噂に高い美貌の宦官・珂月。
「お前の手には、いったい何が見えている?」
色を見ない娘が、後宮の色をめぐる嘘を暴いていく――新しい後宮ミステリー、開幕。