あらすじ
食べることが好き。お酒も好き。
そして何より、一日頑張ったあとの居酒屋が好き。
日本で会社員をしていた二十六歳のミサキにとって、仕事帰りにふらりと居酒屋へ立ち寄り、美味しい料理とお酒を楽しむことが毎日のささやかな幸せだった。
ところがある日、気がつけば剣と魔法と魔物が存在する異世界に転移していた。
特別な使命も、圧倒的な力もない。
それでも生きていくためには、お金がいる。
冒険者となったミサキは薬草を採り、スライムを倒し、ときには護衛依頼をこなしながら、その日の生活費を稼いでいく。
そんなある日、スライムを倒して得た魔石の換金額は千ゴールド。
宿代を残して、明日の食費も考えて――。
「千ゴールドあれば、飲めるよね」
そこから始まる、異世界での居酒屋めぐり。
焼き鳥に似ているけれど、まるで違う《角兎の炙り串》。ビールを思わせる《麦酒》。見知らぬ魔物や香草を使った煮込み料理。
「唐揚げみたい……いや、全然違うな」
前の世界の料理と比べ、その違いを楽しみ、その日の仕事に愚痴をこぼしながら一杯飲む。
稼ぎが少ない日は、安酒と串一本。
たくさん稼いだ日は、ちょっと贅沢に。
最初は何を食べても日本の味と比べていたミサキにも、やがてこの世界で好きな料理、好きな酒、そして馴染みの店が増えていく。
世界を救う予定はない。
伝説の冒険者を目指すつもりもない。
今日も一日働いたなら――。
「さて、今夜はどこで飲もうかな」
これは酒と美味しいものを愛する女性が、今日の稼ぎを握りしめ、異世界の居酒屋を楽しんで帰る物語。