あらすじ
王太子アルフォンス・ガイゼンは、ある日突然、身に覚えのない罪を着せられ、その地位を奪われた。
王太子としての権利も、婚約者も、これまで築いてきた立場も失い、彼に与えられたのは――王都から遠く離れた、誰も近づかない古びた塔だった。
けれどアルフォンスは、絶望しなかった。
「……もう、王太子じゃなくていいのか」
幼い頃から王族として生き、国のため、人のため、王太子として正しくあることを求め続けてきた彼にとって、追放にも等しいその処分は、初めて与えられた“自由”でもあったからだ。
しかも、その塔はただの廃塔ではなかった。
中には、二千年前を生きた天才魔導具師セリーヌが遺した未知の魔導具が眠り、世話焼きな魔導人形セリーと、膨大な情報を検索できる腕輪型魔導具エルまで存在していた。
快適な部屋。
食料。
治療設備。
転移装置。
現代では失われた数々の魔導技術。
アルフォンスはそこで、王位へ戻ることも復讐することも望まず、ただ静かに、自分の意思で生きようとする。
――ところが、塔の外へ出てみれば、近くの町では支援制度が不正に潰され、住民たちは搾取されていた。
助けを求める人々。
妹を人質に取られ、罪を犯した男。
過去の不正を隠す役人たち。
王都から追ってくる元婚約者やかつての側近、近衛騎士たち。
そして、調査の先で見つかる、王家の名を使った不可解な研究施設。
そこには、薬と精神干渉によって自分の名前すら奪われた人々と――
「アルフォンス・ガイゼン」
そう名乗る、少年がいた。
さらに古い保存槽から現れたのは、七歳の頃のアルフォンスとほとんど同じ顔を持つ、もう一人の少年。
自分は何者なのか。
王太子だった自分の記憶は、本当にすべて自分のものなのか。
「不要な感情を分離した」と記された王家の計画とは何なのか。
そして、人を“正しくする”ために作られた仕組みは、いつから本人の意思を無視するものへ変わってしまったのか。
真実へ近づくほど、アルフォンス自身の過去も揺らぎ始める。
それでも彼は、もう誰かに決められた役割へ戻ろうとはしない。
名前も。
立場も。
過去も。
誰かが残した記録も。
それだけで、人間のすべてが決まるわけではない。
王位なんていらない。
英雄にもならなくていい。
これは、嵌められてすべてを失った元王太子が、二千年前の不思議な遺産が眠る古の塔を居場所にしながら、自分自身と、居場所を奪われた人々の“選ぶ自由”を取り戻していく物語。