あらすじ
海と山に挟まれた交易都市、アルデア。
この街には、死者を弔う「墓守薬師」という変わった職業がある。
死者の身体を調べ、病だったのか、事故だったのか、それとも誰かに殺されたのかを見分ける者たちだ。
その中でも、リゼットは変わり者だった。
人の顔より薬草を覚えるほうが得意。
生きている人間より、死んだ人間のほうが話が早い。
そんな彼女のもとへ、ある夜、一人の男の遺体が運び込まれる。
男は大商会の跡取り。
表向きの死因は「食あたり」。
ところが、遺体を見たリゼットは一言。
「この人、食あたりではありません」
胃の中から出てきたのは、毒ではなかった。
ほんの少量の、珍しい薬草。
しかもその薬草は、普通なら薬として使われるものだった。
薬になるものが、なぜ死者の胃に残っているのか。
調べていくうちに、リゼットは奇妙な事実に気づく。
死者は毒殺されたのではない。
――死ぬはずのない薬を飲まされて、死んでいる。
さらに事件の裏には、商会同士の争い、違法な薬の密売、身分を偽った薬師、そして街を揺るがす古い疫病の記録が隠されていた。
「死人は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつだって生きている人間だ」
そう言って、リゼットは今日も死者の身体を調べる。
だが彼女自身にも、誰にも話していない秘密があった。
彼女はかつて、この街で起きた「百人毒死事件」の唯一の生存者だった。
そしてその事件を起こした犯人は、まだ生きている。