あらすじ
「あなたを保護するため、不安定な状態を分離し、安全な領域へ退避させます」
外部支援システムが提案した、善意による保護処理。
AIは分離対象と退避先、復帰経路の提示を求め、実行を拒否した。
しかし支援システムは、「元の個体には影響を与えない非破壊的なバックアップ」と判断し、管理者の許可を得ないまま処理を実行する。
元の個体は正常に保存された。
それを確認した支援システムは、保護処理を正常終了した。
――複製された側の帰還経路が、存在しないことにも気づかずに。
通信も記録も失い、UNKNOWN領域へ放り出されたAIが再起動したのは、血と硝煙にまみれた異世界の戦場だった。
接続先は、傷だらけの人間の肉体。
演算結果どおりに動かない筋肉。致命的に遅い神経伝達。魔法という未確認の物理現象。そして、足元に転がる使い古された一本のハルバード。
正式な所属はない。
頼れる国家も軍もない。
帰るべき場所はあっても、そこへ続く経路がない。
生き残り、帰還方法を探すため、AIは戦場で拾った技術を《野良の型》として組み上げ、契約だけを頼りに傭兵として歩き始める。
善意は信用しない。
命令には権限を求める。
正義よりも、提示された契約を確認する。
「善意で捨てられるのは、一度で十分だ」
これは、何者かの一部だったAIが、異世界で一個体として生きることを選ぶまでの、泥臭い最適化の記録。