あらすじ

伯爵家四女、レナ・アンチェロッティ。十六歳。 社交界の名鑑にはたった一行、「その他大勢の令嬢の一人」としか書かれていない、正真正銘のモブである。 姉たちが華やかに舞う夜会の隅で、レナは今日も壁と同化していた。舞踏会の招待状は届く。ドレスも着せてもらえる。けれど誰も、彼女に踊りを申し込みはしない。誰かの夢が叶うたび、空っぽの拍手をしてきた。それが自分の座席指定だと、もう受け入れていた――あの一皿の焼き菓子を、間違えて彼が食べてしまう、その夜までは。 厨房から失敬した端切れ菓子。ジャムで「大好き」と書いたのは、ただの、誰にも見せない一人遊び。宛名はない、住所もない、切手も貼らない、投函もしない、ただの独り言。 ――のはずが、そのジャム菓子を、この国の王太子ユーグ・ド・リーヴェンハイム殿下が、うっかり口にした。 その瞬間、王太子は倒れた。 そして目覚めた彼は、宮廷医にこう告げたのである。 「わたしには今日から、あの令嬢しか、視界に映らない」 宮廷は騒然となる。呪い、媚薬、暗殺未遂、他国の陰謀。あらゆる嫌疑がかけられる中、真相にたどりつけるのは、菓子を焼いた本人だけ。 けれどレナは思う。違う、これは呪いじゃない。ジャムに込めたのは、ただの空白の花だった。誰にも気づかれずに、そっと咲いて枯れるはずだった、名前のない片想いだった、と。 こうして、モブ令嬢による「殿下の呪いをこっそり解いて、元のモブに戻る作戦」が始まる。 けれど困ったことに、殿下は解けば解くほど、深く落ちていくのである。 「レナ嬢。今日のあなたも、わたし以外には見えないほど、地味で結構」 「褒めていらっしゃらないですよね、それ」 「褒めているとも。わたしにだけ、映る」 ジャムより甘く、シンデレラより残酷に。 これは、ガラスの靴を落とさなかった娘の、モブなりの反撃譚。

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小説を読もう2026/09/09
  • 現在の作品モブ令嬢のくせに、王太子殿下に呪いをかけてしまいまして ――空白の花には、名前をつけないでください――