あらすじ
辺境の村で暮らす一人の女性・リーア。
彼女の元に届くのは、魔王の軍勢と戦う「勇者アルトリウス」の不敗の噂と、村人たちからの無邪気な祝福だった。
「無敵の英雄」「神に選ばれし救世主」——
人々が彼を讃えれば讃えるほど、リーアの心は凍りついていく。
世間が崇めるその人物は、かつて暗闇を怖がり、すり傷一つで泣きべそをかいていた彼女の小さな息子・アルだったからだ。
称賛という名の呪いに我が子が死地へ追いやられていく恐怖の中、ある日、リーアの元に傷ついた一人の青年が訪れる。
アルからの手紙を携えてやってきた男は、かつて彼の仲間だったスカウト・カイルと名乗り——世間の噂とはかけ離れた「泥臭くて青くさい勇者一行の真実」を語り始める。
剣を持って魔王を倒すことだけが戦いではない。
世界が彼を「勇者」と呼んでも、我が子を「ただの息子」に戻す場所を守り続けること。
これは、英雄譚の影に隠された、一人の母親の静かな愛の物語。
※本作は『ドラゴンクエストIII 知られざる伝説』に掲載されていた、勇者を待つ母親のエピソードから着想を得て執筆した二次創作ではない完全オリジナル作品です。
「完璧で達観した聖女のような母親」ではなく、我が子の称賛に怯え、葛藤し、それでも帰る場所を守り続ける「生身の等身大の母親」を描いてみたいという想いから生まれました。