あらすじ
西暦二九一年――洛陽。
統一王朝・西晋の宮廷で、一滴の血が流れた。
それはやがて皇族同士が天下を奪い合う「八王の乱」へと膨れ上がり、巨大帝国を内側から食い潰していく。
皇帝は傀儡となり、王侯は兵を挙げ、昨日の味方が今日の敵となる。飢饉と疫病が大地を襲い、流民が街道を埋め、長安と洛陽さえ戦火に呑み込まれていく。
そして、西晋の弱体化とともに、それまで辺境や中華王朝の支配下にあった匈奴、羯、鮮卑、氐、羌などの諸勢力が次々と歴史の表舞台へ躍り出る。
劉淵、石勒、苻堅、慕容恪、姚萇、赫連勃勃――。
出自も民族も理想も異なる者たちが、ある者は天下統一を夢見て、ある者は一族を守るため、ある者は復讐のため、そしてある者はただ生き残るために剣を取る。
国が興っては滅び、昨日の王が今日には囚人となる。
英雄が覇者となり、奴隷が皇帝へ駆け上がり、名将が戦場に散り、数え切れぬ民が乱世に翻弄される。
五胡十六国時代。
百年以上にわたって華北を覆った、分裂と戦乱の時代。
これは単なる王朝興亡の物語ではない。
漢人も胡人も、皇帝も奴隷も、英雄も名もなき民も――誰もが生きる場所を求め、崩壊した天下を駆け抜けた者たちの群像劇である。
八王の乱から西晋滅亡、永嘉の乱、前趙・後趙の興亡、前秦による華北統一、そして淝水の戦いと再び訪れる大分裂へ。
天下は砕け、英雄は咲く。
世界史上類を見ない地獄の幕が、いま上がる。
――『乱華 ―五胡十六国―』