あらすじ
紹介文
「人生、やり直してみる?」
終電の座席で、隣に座った女がそう囁いた。海月ユージ、二十八歳。ブラック企業で十年、誰にも礼を言われないまま、身体だけが先に壊れた男だった。
気がつけば見知らぬ森の中。手の中には一台のスマートフォンが握らされていた。
『エンジェルすまーとふぉん』——日本の商品を、異世界のどこにいても取り寄せられる神の端末。
残高、千円。
しかもこの口座、働いても増えない。金額が動くのは、誰かに心から「ありがとう」と言われたときだけ。そのうえ、見返りを計算して親切にした瞬間、一円も入らない。
空腹に耐えかねて買った百二十円のパンを、腹を空かせた相手に半分だけ渡した。通知音が鳴る。入金、三十円。
「……赤字じゃねえか」
助けるたびに損をする。それでもユージは、今日も誰かにパンを半分渡す。
流れ着いたのは、三大国の緩衝地帯にある限界集落ポポロ村。みかん箱の上で歌う極貧の地下アイドル人魚姫リーザ。血を吐いてでも他人を癒やす月兎族の村長キャルル。算盤を弾いて村の帳簿を守る猫耳の銀行支店長ニャングル。
金も力もコネもない男が、感謝だけを元手に、この村で生き直しはじめる。
一方、村で幅を利かせる小悪党は考えていた。感謝が金になるのなら、感謝を強制させればいい、と。
——彼の口座には、生涯ただの一円も振り込まれない。
これは、十年間ありがとうを言われなかった男が、たった三十円の「ありがとう」から人生を立て直していく物語。