あらすじ
人間が生まれた瞬間、その人間の人生は決まる。
少なくとも、この世界ではそういうことになっている。
赤ん坊が産声を上げる。
すると空中に、一枚の白い紙が現れる。
誰の目にも見えるわけではない。
両親と、立ち会った司祭だけが見ることを許されている。
そこには、その子供の名前。
職業。
スキル。
才能。
寿命。
そして――その人間がどんな人生を送るのか、その大まかな筋書きが記されている。
たとえば、
【名前】エドガー・ベルン【職業】農夫【スキル】土壌改良【才能】中【寿命】六十八歳【物語上の役割】村を支える善良な農夫
そんな具合だ。
十八歳で恋をする。
二十歳で結婚する。
三十歳で娘を授かる。
六十八歳で、家族に囲まれて眠るように死ぬ。
もちろん、細かいことまで書かれているわけではない。
今日の夕飯が何か。
どんな靴を買うか。
道を歩いて何回転ぶか。
そんな些細なことまでは決まっていない。
けれど、人生を左右する重要な出来事は決まっている。
だから人々は、それを運命と呼んだ。
そして、その運命を書いている存在を――作者と呼んだ。
「作者様は、今日も世界を見てくださっている」
教会では毎朝、祈りが捧げられる。
「作者様が、我らに正しき役割をお与えくださいますように」
誰も疑わない。
英雄なら英雄として。
商人なら商人として。
農夫なら農夫として。
悪人なら悪人として。
誰もが、自分に与えられた物語を生きていた。
――ただ一人を除いて。