あらすじ
内海に面した人口九万の町、石海市。葬儀社で三十年、湯灌と納棺だけをしてきた沢渡すみれは、職能等級が入社二年目から一度も動いていない。昇進試験を受けなかったからだ。役職も部下もない代わりに、腕だけが県内で名指しされるところまで行ってしまった。
彼女には三十年やめていない手順がある。湯灌の前に、遺族ひとりひとりへ同じことを訊く。最後に、何と声をかけられましたか。
ひとり暮らしのまま亡くなった早瀬喜市の通夜で、長男と、十五年この家の世話をしてきた女性が家と土地を取り合いはじめる。すみれの問いに返ってきた二つの答えは、どちらも半分が欠けていた。