あらすじ
「錬金聖女の称号を剥奪する。お前の作った魔導炉は欠陥品だ!」
国家式典の最中、宮廷魔導炉が『焦げた匂い』を放って停止した。責任を問われた公爵令嬢フィリアは、婚約者の王太子から衆人環視の中で断罪され、婚約破棄を言い渡される。
だが——彼女は知っていた。炉が止まったのは故障ではなく、自ら組み込んだ『保護回路』が身を挺して大爆発を防いだ証だということを。それを「無駄な部品」と嗤って取り外したのは、男爵令嬢ミレーユその人だった。
フィリアの正体は、前世で過労死した日本の電源設計エンジニア。この世界の『魔導』の正体が『電気工学』であることを知る、ただ一人の人間だった。焦げた匂いひとつで、何が起きたかすべて分かる。
理解する気のない者に説明するのは無駄——彼女は淡々と断罪を受け入れ、こう言い残す。
「焦げた匂いがしたら、それは部品が身を挺して、爆発を防いだ証拠ですよ」
宮廷を去ったフィリアは、辺境で工房を開く。前世の技術と工学の知識で、壊れたものを一つずつ直していく日々。やがて彼女は気づく——王都の魔導網は、保護回路なき欠陥だらけ。焦げた匂いすらしない、突然爆発する炉がいくつも眠っていることに。
「さて。……次は、この国の魔導網、全部作り直しましょうか」
過労死した前世では間に合わなかった。でも今世は、まだ間に合う。
これは、焦げた匂いのしない——本当に安全な世界を作る、元社畜令嬢の物語。
※炎上した宮廷魔導炉の修理依頼は受け付けません。