あらすじ
「なあ、ユウさん。今日ってやっぱり、勇者が選ばれる日なんですか?」
朝の冒険者ギルド。
依頼書の束を整理しながら、俺は窓の外を見た。王都セレノアの街並みは、いつもより騒がしい。
「ああ。たぶんな」
「たぶんって……。勇者が選ばれるの、何百年ぶりとかですよ?」
「何百年ぶりって言っても、俺たちが生きてる間に一度あるかないかだろ」
「そりゃそうですけど」
若い職員が窓に近づいた。
王都の中心にそびえる王城。
そのさらに向こう。
朝の空を突き抜けるように、巨大な光が伸びている。
「見てくださいよ。あれ」
「見えてる」
「やっぱりすげぇな……」
俺たちが暮らしているセレノア王国は、エルディア大陸の東側にある。
大陸の中央には、南北に連なる天嶺山脈がある。その山脈を越えた西側には、魔族たちの領域――魔王領ヴァルガ。
子供の頃から何度も聞かされた話だ。
東に人間。西に魔族。
中央に山脈。それが俺たちの知る世界だった。
「俺、一度でいいから天嶺山脈の向こう側まで行ってみたいんですよ」
「やめとけ」
「即答ですね」
「命が惜しいならな」
「でも、向こうにも街とかあるんでしょう?」
「あるらしいな」
「魔族が住んでる?」
「そうだろうな」
「じゃあ、やっぱり怖いですよね」
俺は少しだけ考えた。
「……まあ、俺たちも向こうから見れば怖い存在かもしれないけどな」
「え?」
「何でもない」
そう言って、俺は依頼書を机の上に置いた。エルディアでは、人間と魔族は長い間戦争を続けている。
俺が生まれるずっと前から。
たぶん、俺が死んだ後も続く。
そんなものだと思っていた。
だからこそ――
「勇者が必要なんでしょうね」