あらすじ
「毒を盛られても顔色ひとつ変えない、恐ろしい女――」
後宮でそう囁かれる崔明蘭(さい・めいらん)、二十歳。本人としては、至って心外である。
だって、味がしないのだから、顔色も変えようがない。
半年前の毒殺未遂事件。居合わせた明蘭だけが騒がず、涼しい顔で皿を空にしていた――ただそれだけの理由で、彼女は「悪食姫」という二つ名と、皇太子・蒼月殿下専属の毒見役という、名誉なのか厄介払いなのか判然としない役目を押しつけられた。
実のところ明蘭は、幼い頃の大病で嗅覚と味覚のほとんどを失っている。甘いも辛いも、毒も薬も、彼女の舌の上ではただの「何か」でしかない。それを誰にも打ち明けられないまま、今日も殿下の御膳を黙々と平らげる日々。
けれど、聡明で人嫌いと評判の蒼月だけは、明蘭の"平静"にどうにも違和感を覚えているようで――。
「そなた、本当に何も感じていないのか」
見抜かれてはならない秘密と、見抜いてしまう男。そして、本物の毒が少しずつ膳に紛れ込み始める。
勘違いから始まった後宮暮らし、次にあなたが疑うのは味か、恋か、それとも――?