あらすじ

世の中には、立っているだけで嘘をついている建物がある。 リリアン・フォン・クライスは、そういう建物を見分けるのが得意だった。得意すぎて、婚約を破棄された。 八年間、彼女は婚約者レオンの名前で図面を引いてきた。レオンは図面が読めない。読めないことを八年間隠すために、婚約者の腕が必要だった。 王城新館の設計で、リリアンは地盤台帳を根拠に「東側は杭を十二尺まで」と言った。工期が延びる。費用も増える。 「図面など令嬢の手すさびだろう。口を出すな」 一週間後に婚約は破棄され、翌朝、八年分の設計書が暖炉で燃えた。 辺境ガントレンで設計事務所を開いて九か月。ある夕方、隣国ランバール公国の建設特使が訪ねてくる。 王城の新館が沈んでいる。晩餐会は五日後。そして——この菱形の印を引いた人間を、三年探していた、と。 菱形の印は左利きの引き方だった。二人とも右利きだった。 地盤台帳と、書き替えられた杭の数字と、床下で実測した二寸が、枢密院で並ぶ。 建物は嘘をつかない。つくのは、いつも人のほう。 専門職ヒロインの腕が八年ぶんの名前を取り戻す、明るいざまぁ×溺愛短編。

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カクヨム
カクヨム2026/09/08
  • 現在の作品『図面など令嬢の手すさび』と八年分を燃やされた設計士——三か月後、王城の新館が傾きはじめました