あらすじ
「たった3日間の辛抱だ。しっかりやりとげてみせろ」
シエンは鏡の中の少女に活を入れる。
日本が誇る豪華客船のロイヤルスイートだけあって、広々としたバスルームはダブルシンクで、正面の壁はほぼ鏡張りになっている。
「いや、明後日の朝には入港するから実質2日だな。その間、ずっと笑ってるだけでいいんだ。楽なもんだろう」
鏡に映る気だるげな表情を眺めながら、自分自身に言い聞かせていた。
「せっかくお偉いさんたちが集まるところへ行くんだから、できるだけ大勢にウチをアピールして、ひとりでも多くのスポンサーを見つけてきてよ」
「分かっている! だからこんな格好までしているんだろう」
記憶の中の上司に向かってシエンは忌々しそうに毒づく。
今のシエンの格好を組織の連中が見たら、何というだろうか。
ふだんのラフな服装とは異なり、見るからに高価なドレスを着て、いつもはほとんどしていないメイクも、今日に限っては髪の毛の先から足の爪先までプロの手で仕上げられている。
「たった3日間の辛抱だ」
さっきと同じ言葉を口にすると、ようやく吹っ切れたのか、勢いよく鏡に背を向け律動的な足音を立てながらバスルームを出て行った。
【解説】前作『異世界後遺症の癒やし方』と同じ世界を舞台にしておりますが、時系列は若干前後しております。また、前作の登場人物はゲストキャラクターとして数人登場するだけの予定で、前作をお読みいただかなくてもお楽しみいただけるかと思われますが、前作と重複する専門用語や世界設定などの解説は省略しておりますので、もしお時間があるようでしたら先に前作からお読みいただければと思います。