あらすじ
王立神学校を首席で卒業し、「百年に一人の聖女」と讃えられるサフィール・ヴァン・ローゼンハイム。彼女の務めは、大聖堂の告解室で貴族たちの罪を聴き、神の赦しを伝えること。
だが、誰も知らない。彼女には神の声が一切聞こえないことを。
聞こえるのは、告解者の心拍・呼吸・衣擦れの微細な乱れだけ。下町の孤児院で「嘘を見抜く耳」として育ったサフィールにとって、告解室は神聖な場所ではない。罪びとの心音を聴き分ける、最高の観察席だった。
「……聖女様。実は私、夫の毒を毎日少しずつ盛っているのです」 「神はお許しになります。なぜなら、あなたの心臓が『嘘をついていない』と告げていますから。――それで、どの毒草をお使いですか? 効き目の悪いものなら、代わりの処方を教えて差し上げましょう」
今日も告解室には「本物の悪意」と「贋物の罪」が入り混じる。
そんなある日、心音が完全に読めない男が告解室に現れた。
「聖女様。私はこれから、この国の聖女を殺します」
心臓は、静かに、正確に、真実を告げていた。
これは、神の声が聞こえない聖女と、心音を殺せる殺し屋が織りなす、贋物だらけの救済劇。