あらすじ
毒とは、料理に乗ってやってくる――この後宮では、そう信じられてきた。
尚食局の最下等、毒見役・華鈴の舌は、毒の"声"を聞く。苦い嫉妬、しょっぱい孤独、酸っぱい悔恨。毒はいつも、作り手の感情を泣きながら語る。誰もやりたがらない死の先払いを、彼女は朝の読みもののように味わう。理由は一つ。鋭すぎる舌は"鬼の舌"と呼ばれ、味官の実家にすら疎まれたからだ。
幼い頃の毒殺未遂が元で味覚を失った若き皇帝・崇玄は、世界の味を"毒見の報告"でしか知れない。今日も彼は、華鈴の一口に自分の匙を預ける。毒見役と皇帝は、まるで共犯者のように、一日の味を分け合い始めていた。
ところが――皇后の実家・周家からの献上品、香箱が尚食局に届く。「香には毒は乗らない」。華鈴もそう信じていた。けれど香りの底で、舌が、彼女の名前を呼ぶ。この香は、この後宮の中で調合された。そして、その作り手は、華鈴の"舌"を知っている。十年前、実家を出されるときに出された、蓮の実入りの粥の味を――母の味を知っている。
毒見役の舌が、はじめて自分宛ての毒と出会う、食卓奇譚。香には毒は乗らない。乗るとすれば、毒より厄介な、想いか、それとも。