あらすじ

スーパーのレジに並んでいた時、五歳の湊が突然、いちご柄の子ども用歯ブラシを一本手に取った。背伸びをして、レジ台の上に置く。 「湊、歯ブラシならもうあるでしょ?」 何気なくそう言うと、湊は歯ブラシを胸に抱えた。 「これ、ぼくのじゃないよ。妹にあげるの」 一瞬、何を言われたのか分からなかった。 「妹って?」 湊は、隣でカートを押していた夫の拓真を見上げた。 「いるよ。パパが、妹が歩けるようになったら一緒に遊びに行こうって言ってたもん」 買い物袋を開いていた手が止まった。 「いつ、そんな話したの?」 「ママがお仕事で遅かった日」 湊は少し考えてから続けた。 「パパと莉奈さんのおうちに行ったの」 「莉奈さん?」 「うん。おなか、すごく大きかったよ。赤ちゃんいるんだって」 拓真の顔から表情が消えた。 「湊、適当なこと言うな」 湊は慌てて首を振った。 「嘘じゃないよ。莉奈さん、赤ちゃんが生まれても――」 「湊!」 鋭い声に、子どもの手がびくりと震えた。 いちご柄の歯ブラシが床へ落ちる。 私はしゃがんで拾い、棚には戻さず、そのまま買い物かごへ入れた。 拓真がこちらを見る。 「子どもの勘違いだ。真に受けるなよ」 「そう」 会計の直前、同じいちご柄の歯ブラシをもう一本取った。 拓真に差し出す。 「来週も莉奈さんの妊婦健診に付き添うんでしょ。ついでに渡しておいて」

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小説を読もう2026/09/08
  • 現在の作品息子が喘息発作で救急室に行き、私がそこで縫合したのに、夫は愛人の妊婦健診に付き添っていた