あらすじ
大学受験に失敗し、何者にもなれず立ち止まっていた十八歳の秋。主人公の紬(つむぎ)は、雨の夜に助けた不思議な老婆から、月に一度、満月の夜にだけ現れる「影の迷い人」たちを彼らの世界へ帰すための道標、青い炎のランプを灯す役目を引き継いだ。それから六年間。東京の片隅にある名もなき神社の境内で、誰にも知られることなくランプを灯し続けることだけが、彼女の人生の誇りであり、同時に前に進まないための言い訳だった。二十四歳になったある満月の夜、いつものようにランプを灯す紬の前に、見慣れぬ美しい銀色の獣が現れる。それは、彼女が六年間縛られ続けた孤独な役目の終わりと、手放す時が来たことを告げる使者だった。淡い魔法が日常に溶けていく現代の夜の街で、一人の女性が六年の停滞に別れを告げ、再び自分の足で歩き出すまでの、静かな決断の物語。