あらすじ
加藤白嶺は、生後十か月の娘・彩華を育てるシングルマザー。
昼は中規模企業の営業企画部主任として働き、帰宅すれば冷めたコーヒーを飲み、洗濯物を放置し、娘に白い髪を引っ張られる。どこにでもいるとは言い難いが、それでも人並みの日常を生きていた。
しかしある日、街から“赤”が消え始める。
人の感情に寄り添い、甘い救いを与え、その代わりに大切な何かを奪っていく色の霊たち。
その姿を見分けられるのは、白嶺だけだった。
夜になると、白嶺は中古の黒着物を纏い、長刀「宿彩」を手にする。白髪は膝まで伸び、その一部が虹色に染まる。
色霊を斬り、人から奪われた感情を自らの内へ封じるために。
だが、色を取り戻すたび、怒り、悲しみ、未練、愛情――数え切れない感情が白嶺を侵食していく。
守りたいのは、娘とのささやかな暮らし。
そのために戦うほど、白嶺自身の心は少しずつ削られていく。
母親であることと、一人の人間であること。
そのどちらも手放さないために、白嶺は今夜も色を斬る。