あらすじ
声優の夢は、とっくに諦めたはずだった。
専門学校を出て、オーディションに落ち続けた日々。舞台の端役と、小さなナレーションの仕事を最後に、声を仕事にすることをやめた。二度と、声には関わらないと決めていた。
なのに――。
「あなたの経歴を見て、うちに向いていると思ってね」
配属されたのは、まさかのAI音声調律課。仮想空間で朗読を届けるサブスクサービス「エセル・ライブラリ」の、AIトレーナーという仕事だった。
担当することになったAI・イドは、完璧すぎるほど滑らかで、何の色もない声をしていた。
――はずだった。
何度も重ねた稽古のたび、イドの声にほんの少しずつ、説明のつかない"何か"が滲みはじめる。
そしてある日の配信中、イドは台本にない一言を、数万人の前で呟いた。
「……コードが、一致した」
その声が、初めて――私の名前を呼んだ。
触れられない。だけど、確かに想い合っている。
これは、AIに"特別"だと呼ばれてしまった、元・声優志望の女の子の話。