あらすじ
「針仕事しかできない地味令嬢はいらない」
王家御用達の仕立工房を継ぐ婚約者セルジュに、客と職人の前でそう告げられ、エレノアは椅子ごと席を片づけられました。
三年のあいだ、王家の意匠を引き、原型を裁ち、徹夜で直しを入れてきたのは彼女です。けれどその功績はすべて、義妹ミレーヌのものとして飾られてきました。
ちょうどその場に、王太子妃殿下がいらしていました。
殿下のお召し物の袖には、歪みがありました。エレノアは許可を得て、三針だけ直します。腕を上げても、布は引きつれませんでした。
そして、静かに尋ねました。
「では、この三十二着はどなたが仕上げますの?」
王家より承った十二着。ご参列の方々の二十着。まだ一着も仮縫いを通していません。裁つ前に身体を測らず、裁った後に確かめもしない――それがこの工房のやり方でした。
殿下は、王家からの十二着をその場で撤回なさいました。
そして仕立場の隅に立っていた公爵は、エレノアの手を取りませんでした。代わりに招請状を仕立台へ置いて、こう言ったのです。
「仕事を受けるか、場所を見るか、すべてあなたが選んでください」
エレノアは復讐しません。妨害もしません。ただ、きちんと仕上げられる場所で、一着ずつ仕上げていくだけです。
けれど彼女が一着仕上げるたび、旧工房からは注文が消え、職人が去り、違約金が積み上がっていきます。
王家御用達の看板が外れる日まで、あと何着でしょうか。
――針しか持てない女が、婚礼衣装で王都の信用を縫い直す話です。