あらすじ
魔力技術が発達した瑞光国。その王宮で働く春野しずくは、数十年に一人といわれる「魔力のほころびが視える」希少な能力の持ち主だった。
小さな異常も見逃せない彼女は、王宮の魔力設備を守るため、今日も定時を過ぎても働き続けている。
そんなある夜、しずくは帰宅途中で一匹の白銀の子犬を拾う。
その子犬は人の言葉を話し、しずくの魔力を「おいしい」と言い、感情が高ぶるだけで家中の魔道具を壊してしまう、とんでもない存在だった。
翌朝、神殿から現れた高位神官・雪村によって、その正体が明かされる。
子犬――子狼は、隣国・蒼月国の神獣、銀狼の次代。
「ままと一緒にいたい」と、しずくにすっかり懐いてしまった子狼は、泣けば魔力を暴発させ、ついには王宮まで凍りつかせてしまう。
騒ぎを嫌った瑞光国の神獣・白虎がしずくの住む官舎を神域にしたことで、しずくと子狼は国を挙げて見守られることに。
さらに国王からは、子狼の魔力暴発を防ぐため、まさかの「特別勤務規定」が制定される。
――国王命令による定時退社。
仕事をすることしか知らなかったしずくは、突然与えられた「仕事のない時間」に戸惑う。
そんな彼女のもとを訪れるのは、騎士団事務官の黒川湊。
魔道具技師を目指し、仕事の傍ら研究を続けている湊もまた、休むことを知らない仕事人間だった。
子狼は騎士団の若手騎士・礼央と遊んでは魔道具を壊し、そのたびに「ごめんなさい」と悲しそうに耳と尻尾を垂らす。
「この子が気兼ねなく遊べる場所を作ってあげたい」
そう願うしずくに、湊は言う。
「壊れない魔道具を作りましょう」
子狼の魔力がなぜ魔道具を壊してしまうのか。
その原因を調べるため、しずくと湊は研究を始める。
仕事しか知らなかったしずくの周りには、いつしか神獣と神官、騎士、そして魔道具を作る青年が集まっていた。
これは、かわいい神獣に振り回されながら、少しずつ「仕事以外の居場所」を見つけていく、お仕事ファンタジー。
【登場人物】
◆ 春野しずく(26)
王宮総務局・魔力設備管理担当。
能力:魔力のほころびが視える
数十年に一人と言われる希少な才能を持つ。
真面目で責任感が強く、人に頼るのが苦手。
小さな異常も見逃せないため、気づけばいつも残業している。
王宮では、
「総務の妖精さん」
「歩く定期点検」
と呼ばれている。
料理が得意で、子狼の好物を作る世話焼きな一面もある。
◆ 黒川湊(27)
騎士団事務官。
魔道具修理担当。
本来は魔道具技師を目指していたが、家の事情で正式資格は取得せず就職した。
現在は、騎士団事務官として勤務
魔法省監督下で、修理業務を許可されている
誠実で努力家。
定時で帰る理由は、趣味ではなく夢のため。魔道具研究を続けている。
しずくの「視える力」を誰よりも正しく評価する人物。
◆ 子狼
蒼月国の神獣、銀狼の次代。
白銀の毛並みを持つ幼い狼。
甘えん坊で、感情豊か。寂しがり
魔力操作が甘く、感情が大きく動くだけで魔力が漏れる。
しずくの魔力を気に入り、「まま」と呼ぶようになる。
かわいい災害。
◆ 雪村
瑞光国の高位神官。
子狼を担当する神官。
穏やかで礼儀正しいが、神獣に対して非常に弱い。
子狼を見ると理性が崩れる。
神殿では、「子狼様の乳母」という愛称で呼ばれている。
◆ 礼央
若手騎士。
明るく軽い性格。
しずくに軽く惚れている。
魔力量が多すぎる体質で、時々火花が散る。魔道具をよく壊す。
子狼を捕まえようとして毎回吹き飛ばされるギャグ担当。
◆ 白虎
瑞光国の神獣。
住処は山の上。
魔力循環を整える存在。
面倒くさがりで、気まぐれ。
人間の政治や都合には興味がない。
子狼の魔力騒ぎが山まで届いたため、「うるさい」という理由だけで結界を張った。
◆ 銀狼
蒼月国の神獣。
住処は洞窟。
神獣にとって数十年は散歩程度という感覚。
「そろそろ世界でも見てこい」くらいの軽い気持ちで子狼を送り出している。
【世界観】
◆ 瑞光国
魔力技術が発達した国。
王宮では魔力を利用した設備が多数使われている。
一方で、長年の増改築によって魔法設備は複雑化している。
◆ 蒼月国
瑞光国の隣の国。
神獣の代替わりを控え、魔力が不安定になり、魔法設備に少しずつ影響が出ている。
◆ 神獣
国を支配する存在ではなく、自然界の魔力循環を整える存在。
人間が神獣の力を利用して国を築いた結果、「神獣が国を守っている」と認識されている。
神獣自身は人間社会に関心を持たないものが多い。
◆ 神獣の代替わり
土地に満ちた魔力が長い年月をかけて凝集し、生命を得る。
現神獣が寿命を迎えるころ、その身体は徐々に魔力へ還っていき、新たな神獣「次代」が生まれる。
代替わりの際には、膨大な魔力が一時的に動くため、土地の魔力循環が乱れることがある。
その影響で、自然現象や魔法設備などに異常が生じる場合もある。
◆ 王宮
魔力設備が集中しているため、子狼の魔力暴発の影響を受けやすい。
問題の本質は、古い術式が継ぎ足された複雑な魔法体系にもある。