あらすじ
「掘り返す前にご挨拶はしました」
落第寸前の錬金術士見習いリエリィには時間がなかった。
卒業試験の実地科目は魔物を狩って点を稼ぐ実戦形式。だが、現在彼女が使役できるのは骨のネズミが一匹きり。
デッドエリン家の家訓は『死骸は自分で手に入れろ』。
ならば――自分の足で行ける範囲で一番強い死骸を手に入れるしかない。
追い詰められた彼女は大勇者ティル・スタイナーの墓を暴くことにした。
ところが起き上がったのは記憶も人格もなぜかそのまま残っていて、起こされたことにただ困惑しているだけのスケルトンだった。しかも墓の中には骨しかない。伝承では一緒に葬られたはずの聖剣も、鎧も、外套も、何ひとつ残っていない。
「……なあ。俺の剣どこにやった?」
最強の素材を手に入れたつもりが百年前の嘘に足を突っ込んでしまった少女と永眠を邪魔された大勇者のお話です。
ティルの姿と声はリエリィにしか届きません。他人には『よくできたスケルトンの錬成体』にしか見えず、声も聞こえません。おかげで正体はバレませんが、彼女は骨に向かって一人で喋る変な子になります。
リエリィが錬金術士として一歩進むたびティルは人の姿を取り戻していきます。骨の色が変わり失われたはずの外套が戻り、籠手が現れる。彼が『どこまで戻ったか』が視覚的にもわかりやすく、そのまま彼女の成長の目盛りになります。
ただし、彼が本気を出した分だけ戻りもします。使えば減るので、どこでどこまで出すのかも話の肝になります。
登場人物
リエルリリィ・デッドエリン(リエリィ)
錬金術科の三年生。小柄で、すぐ「ふえぇ」と情けない声を出す。丁寧語を崩さないままだが、悪気なく失礼なことをちょこちょこ言う。学科は主席だが戦闘は壊滅的。この学年で死骸錬成を専攻しているのは彼女だけ。
ティル・スタイナー
百年以上前に世を去った大勇者。公式には病死とされ看取られて大往生したことになっている。本人は「満足して死んだ」と言うが、死ぬ前の一年の記憶がまるごと抜けている。眠くならず、腹も減らず、寒くもないが、そのせいでリエリィが寝てしまうとちょっと退屈。