あらすじ
後宮付きの鑑定女官・陶玉蘭は、少しばかり物の見方がずれている。
みんなが「誰が割ったか」を話しているとき、一人だけ「割れてない」と言うような女である。
趣味も変わっている。一流の職人が、どこか一箇所だけ間違えた贋作を集めることだ。
宗正寺の献納の儀に呼び出された玉蘭は、
名門・白家が皇室に納めるという“国宝”の壺を鑑定させられ、迷わず言った。
「これ、偽物です」。
場が凍りつく中、白家の後継ぎ・白瑶だけが笑った。
「面白い。君が、初めて会った俺に、いきなり喧嘩を売ったことが」
白瑶は骨董にも美術にも一切興味がない。それどころか、本物というものを憎んでさえいる。
代わりに、彼には人を見る目だけが異常に鋭かった。
物の嘘は、玉蘭には一瞬で分かる。
人の嘘は、白瑶には一瞬で分かる。
けれど嘘を一切つかない白瑶の本心だけは、玉蘭にはどうしても鑑定できない。
妃嬪を騙そうとした贋作、結納品にまつわる悲恋、分家の蔵で起きた不審な事故——
後宮には、帝国じゅうの“物”が流れ込む。だから、嘘も流れ込む。
小さな謎を一つ解くたびに、あの“国宝”に隠された秘密の輪郭が、少しずつ姿を現していく。
玉蘭が事件を解けるのは、鑑定が上手いからではない。
人が見ないところを、普段から見ているからだ。
——そして同じ理由で、彼女は恋愛だけを、いつまでも解けないでいる。
【登場人物】
陶玉蘭(20)/後宮付きの鑑定女官。口癖は「面倒くさい」「本当にそう?」「証拠は?」。
物の嘘には証拠を出せるのに、自分の心にだけは、どうしても証拠が出せない。
白瑶(23)/白家の後継ぎ。宗正寺の官吏。本物が嫌い。
嘘は一切つかないのに、本心だけは絶対に見せない。
阿福(18)/玉蘭付きの下級女官。後宮の裏から街まで顔が利く。恋バナが好き。
魏成(30)/白瑶の従者。姿勢がいい。冗談が一切通じない。
陶乾(55)/玉蘭の父。灯京の東市で工房に籠っている。白家の名を聞くと、一瞬だけ手が止まる。
白鴻(45)/白家分家の当主。白瑶の叔父。常に穏やかな微笑を絶やさない。
全四十話・完結済。