あらすじ
七年前の春、秀行は慢性腎不全の末期と診断され、人工透析を始めることになる。体力を奪われ、好きだったバイクにも乗れなくなった秀行は、これまで当たり前だと思っていた日常が失われていくことに絶望する。
やがて医師から腎移植という選択肢を示されると、良子は自ら腎臓を提供すると申し出る。秀行は戸惑いながらも、その申し出を受け入れる。だが、手術を目前に控えた頃、感染症の全国的な拡大によって移植手術が突然延期される。秀行が「早く透析から解放されたい」という思いに囚われる一方、良子は自分自身が手術を受けることへの恐怖を抱えていた。
二か月後、ようやく手術は行われ、秀行は再び生きる力を取り戻す。やがてバイクにも乗れるまで回復するが、良子から臓器を受け取ったことへの感謝を、秀行は素直に言葉にできないまま年月を重ねていく。
そんなある夏、秀行は北海道をバイクで旅する。広大な大地を走りながら、失いかけた人生を取り戻した実感を噛みしめる一方、健康な身体を取り戻した自分と、身体の一部を差し出した良子との間に、言葉にできない思いが残っていることに気づく。