あらすじ
「お前には、人の心がない」
そう言われて、王都一の葬儀屋をクビになった少女、リゼット。
死者の顔を見ても泣かない。
遺族が泣き崩れていても、まず棺の中を確認する。
葬儀の最中に「この人、本当に死んでます?」などと平然と言い出す。
そんな彼女は、周囲から「血も涙もない女」と呼ばれていた。
けれど、本人にはひとつだけ譲れない信念がある。
――死んだ人間にも、最後まで言いたいことがある。
リゼットには、生前に言えなかった死者の「最後の言葉」が聞こえるのだ。
ただし、聞こえるのは本人が本当に伝えたかった一言だけ。
「娘に謝りたい」
「妻に愛していると伝えてくれ」
「金庫の鍵は庭の――」
……最後のやつは、少々困る。
そんな彼女のもとに、ある日、一人の貴族令嬢の遺体が運び込まれる。
王国でも名高い公爵令嬢。
死因は病死。
誰もがそう信じていた。
ところが棺を開けた瞬間、リゼットの耳に聞こえてきたのは、
『私は、殺された』
という死者の声だった。
しかも、その令嬢が最後に残した言葉は、
『犯人は、この国で一番私を愛している人』
だった。
容疑者は、王太子。
公爵家の兄。
侍女。
婚約者。
そして――なぜかリゼット自身。
「どうして私まで疑われるんですか?」
「お前が第一発見者だからだ」
「では、犯人を探します」
「なぜそんなに落ち着いている」
「だって、死体が教えてくれるので」
「…………何?」
死者の言葉を聞くことができる、ちょっとずれた葬儀屋。
本人はただ「最後くらい、ちゃんと送り出してあげたい」と思っているだけなのに、彼女が葬儀を執り行うたび、王都の大事件が次々と暴かれていく。
そして彼女自身も知らなかった。
自分が聞いている「死者の声」には、ある重大な秘密があることを――。
これは、死者には優しいが、生者には容赦がない。
そんな少女の、ちょっと変わった事件簿である。