あらすじ
一六〇二年、アムステルダム。
デリバティブトレーダーだった俺は、四時十七分に心臓を止め、両替商の帳場の下働きとして目を覚ました。
東インドへ向かう会社が、金を集めている。主人が六百ギルダー出した。だが、渡されたものは何もない。証書も、券も、一枚もない。持っているという証拠は、他人の家の帳面に書かれた一行だけだ。
その帳面の第一頁に、細かい字でこう書き足されていた。
——持分の譲り渡しは、簿記係を通じてこれを行うべし。
譲ってよい。つまり、売れる。券がないのに、売れる。
十年待てない未亡人と、金が海の上にある商人。二人とも正しくて、二人とも動けない。俺はその日、世界で最初の一枚を書いた。
そして三ヶ月後、その紙が破られないまま、何の役にも立たないことを知る。
制度には、理由がある。俺はそれを、四百年後から来て、この街で教わった。